北村恭介2
駐車場が混み合っていた。俺は、前の3台が空きスペースを見つけなければ止めることができない。つまり4台の車が出なければならないということだ。不機嫌になることはなかった。覚悟していたことだからだ。20分は経っただろう。進みそうな気配はない。急に後方から白い外国産車が、縦列の右側を抜けていった。逆走だ。目で追っていると、順番待ちの列の先頭に割り込んだ。さっきまで先頭だったカリーナからクラクションが短く1度鳴る。どこも、なんの反応もない。次に、大きく長いクラクションがなった。すると外車の後部座席から2人の男が降りてきた。2人はカリーナの運転席のドアを開けた。声は聞き取れない。右側を1台の車が通り過ぎた。空きが1台分できたようだ。だが、外車は動かない。俺は渋々車を降りた。「どうしたんですか?」「どうもこうもないよ。君だってみたてだろ」「ええ、まあ」「ずっと待っていたんだ。割り込むのはおかしいだろ」カリーナの運転手は、うすい髪の毛をちらかしながら訴えた。「順番守ってくださいよ。確かにおかしいですよ」俺は外車の2人に言った。「なんだと!あんなに鳴らすことないだろ!」「おかしなことしなかったら、鳴らさないですよね」「あたりまえだ」カリーナの運転手が言った。「まあ、いいです」俺はそう言って、外車の運転手に車を出して駐車場に止めるように促した。「しょうがないですね。1台分損しちゃったけど、待ちましょうよ」カリーナの運転手は、大きく息を吐き、小さく頷いた。家族連れだ。不条理な出来事に子供2人がショックを受けている。母親の膝の上には、スーパーの袋があった。買い物帰りに寄ったようだ。「奥さん、その袋の中のそれ、売ってくれませんか」俺は袋から透けて見えるものを指差した。きょんと、しながらハンドルを握る旦那の顔を見た。旦那がうなずくのを確認して「はい」と言って、差し出してくれた。俺は500円玉と引き換えに受け取った。40分程経ってようやく、駐車場に止めることができた。俺は車のキーで、さっきの外車のガソリン給油口をこじ開けた。バキッっと鈍い音がした。すばやく、500円で買い取ったものの封を切り、給油口に流し込んだ。そして噛んでいたガムで蓋を貼り付け、駐車場を出た。カリーナの子供たちのカタキはとった。外車の連中が戻ってくる頃、ガソリンタンクの中は「ふえるわかめ」でいっぱいになっているだろう。俺の名は北村恭介。「何か文句あるか?」
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コメント
このストーリーに最後の-ふえるわかめ-
最高でした(o^-^o)。
ブログでこんなに笑ったの初めてです。
次回の北村恭介3楽しみにしています。
投稿: 通りすがりの男 | 2009年1月30日 (金) 22時41分
通りすがりの男さん
どうもありがとう。
恭介の奴も喜びますよ。
投稿: ひろやん | 2009年1月31日 (土) 08時20分