北村恭介7
目標として歩いている交差点で、子供の乗る自転車と乗用車が衝突した。見通しの悪い交差点。男の子は横転するが、すぐに立ち上がる。見た様子、膝と肘にすり傷があるものの、大きな怪我はないように見える。が、前輪は円形をしていない。運転手が降りる。男の子に一度視線をやり、すぐに助手席側のドアの凹みを確認した。「あーあ」と声を漏らし男の子をにらみ付ける。「すみません」男の子は謝る。「ちゃんと前をみてなきゃだめだろ」男の子の言葉に乗っかり、運転手は叱る。「ボクの家は近くなのか?」「公園の向こうです」「そうか。おっちゃんの車は心配しなくていいからな」「はい。すみませんでした」シャツの裾ですり傷を押えながら、男の子はもう一度謝った。少しだが出血が見られる。「気をつけろよ」運転手はそう言い残し、運転席側へ回った。「カズユキ。どうした?こけたか?」俺は男の子に近づく。運転手は俺に気づくと、さっと座席に腰を下ろし、ドアを閉めようとした。「痛てっ」俺は閉まりかけたドアに膝を滑り込ませた。「何ですか?」「いや、こいつのいとこなもんでね、何かあったのかと思って。事故ですか?」「もう解決したんだ」「どういうふうに?」俺はドアを大きく開け、運転手に降りるように顎で促した。「カズユキ。怪我はないのか?病院へは行かなくていいのか?警察は来たか?」男の子は自転車を電柱にもたれ掛けさせ、俺のそばへ来た。「怪我はすり傷が少し痛いだけ。警察は来てないよ」「警察呼んでないんですか?」運転手に言った。「いや、この子が悪いんですよ、だから怪我がなければそれでいいでしょ」「それだと、運転手の事故に対する責任を無視していますよね。過失は現場検証をしてもらいましょう。警察に連絡をして下さい」運転手は渋々携帯を取り出し、警察に事故を告げた」俺は車のキーを抜き取り、男の子に渡した。「お前が持ってろ」もう、逃げられない。子供と事故を起こし、責任を押し付け、去っていく。こんな不条理なことがあってたまるか。「カズユキ。おじさんか、おばさんを呼びに行こう」男の子と並んで公園の遊歩道を歩いた。「お兄さんありがとう。でも、ボクの名前はカズユキじゃないよ。タダシっていうんだ」「そうか」タダシの頭を強くなでた。俺の名は北村恭介。「何か文句あるか?」
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コメント
圧巻です!
日本中のカズユキを虜にしましたね・・・。
投稿: Fu- | 2009年3月26日 (木) 23時56分
Fu-さん
俺が子供のころ、車とぶつかって、車はいいからね、ってさっさと逃げられたことがある。
あんとき、恭介がいてくれたらなあ、と思って書いてみた。
投稿: ひろやん | 2009年3月27日 (金) 22時31分