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2009年6月 8日 (月)

北村恭介11

開店前の『タビラ』に髭面の男が何の遠慮もせず入ってきた。そして何の遠慮もなく、カウンターに腰を降ろした。「恭介。お前ヒトミと結婚したいって言ってたが、当然もうヤってんだろ?」「や、ヤってません」マスターの突拍子もない質問に俺はあせった。しかし、とっさの答えはウソではなかった。事実まだだった。「さっさとヤレ」俺は返事をしなかった。「父親の俺が言うのもなんだが、いい女になった。あれは処女だ。早いとこ自分のものにしてしまえ」そんなこと言われても困る。以前マスターの邪魔がなければ雰囲気はあったのだが、今は店のことで精一杯だ。「それはそうと、新しい店、たくさん客来てるみたいですね」俺は話をそらした。「新しい店って言い方はよせ。俺はあそこしか店を持ってない。ここはお前の店だ」「そうですね」「それより、こっちの店はどうだ?」「いまいちですね」俺はうつむき、後頭部をかいた。「だろうな。この辺では静かに酒が飲めなくなった。俺はそれが嫌で向こうに店を持った。ここにいた客も同じで、みんな向こうに来てくれている」「でしょうね。こっちもなんとかしないと」泣き言ではなく、そう思った。「ここではここのカラーを出せばいい。お前はお前のカラーを出せばいい」「ヒトミのカラーもですよね」「そうだ。しかし、色気を商売に使うな。そんなもんは長続きしねえ」「そう思います」マスターは軽くうなずき、キャメルに火をつけた。「何か酒は出ないのか?」「マスターこれから開店でしょ」俺はいたずらっ子のような笑顔をつくって見せた。「それもそうだな」マスターは、まだ長いキャメルを灰皿で揉み消し、立ち上がった。「がんばれや。家賃はビタ一文負からんぞ」「はい」俺は後姿に頭を下げた。さっさとヤレ、か。マスターの言葉を耳に残しながら、テーブルを拭く。「私がやるわ」ヒトミが台ふきを取り上げた。「ありがとう。いつからいたの?」「今来たとこよ。少し遅刻ね」「開店までまだ時間あるから」俺は棚のボルトの向きを直すことにした。客が少なければ、酒の減りも少ない。仕入れ量が少なければ交渉単価も上がる。悪循環の構図を思う浮かべた。ヒトミは丁寧にテーブルを拭く。拭き跡までも気にする。そんなヒトミを見つめる。身を屈める後姿。膝上までのスーツスカートにパンティーのラインが写る。純白のブラウスにはブラが透ける。俺はそっと背後から近づいた。抱きしめようよした瞬間、ヒトミは振り返った。「さっきの話聞いてたんだからね」俺は、そそくさと、カウンターに戻った。不条理な話だ。まあ、いいかあせらなくても。ヒトミにその気がないわけではないだろう。「こんなところじゃ嫌よ。ムードがないもん」俺の名は北村恭介。何か文句あるか?

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コメント

すみません。ストーリー見失ってます。
なんとか軌道修正したいです。

投稿: ひろやん | 2009年6月 8日 (月) 22時41分

アクションがほしかったかな?
酒と女とそして暴力。出来ればカーチェイス。
きたいしてまっせ。軌道修正。

投稿: takubom | 2009年6月 9日 (火) 01時55分

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