さーかす

また僕らの街にサーカスがやってきた。妻と子は毎回のように見に行くのだが、僕は行かない。絶対に行かない。断固としていかない。でもこれにはしっかりとした理由がある。サーカスなんて大嫌いだ。

あれは初めてサーカスに連れて行ってもらった小学１、２年の頃。座席に着いて開演を今か今かと待ちわびていたとき、パンフレットを売り歩くおっさんが僕ら家族の前を通った。薄暗くてよくわからなかったのだが、中途半端なピエロのような格好をしていた。父におねだりする。あれ買って、と。父は僕に３００円を手渡してくれた（金額の記憶は定かでない）。僕はそのパンフ売りのおっさんにお金を渡し、パンフとおつり５０円を受けとった。薄暗くてパンフを見ることはできなかったが、僕はパンフをしっかりとにぎり、おつりをポケットにしまった。

中間の休憩時間は照明が点され、明るくなった。やっとパンフを見ることができる。あ、そうだ、おつりを返さないと。ポケットから５０円玉を取り出した。

ところがポケットから抜き出した僕の手に握られていたのは５円玉だった。

これはあの中途半端なピエロの確信犯である。おつりにわざわざ５円玉を用意するはずがない。これは僕が記憶する中で初めての詐欺だ。

幼いときに、こんなことされたサーカスを見に行く気がすると思う？あれがどこの団体だったか言ってやりたいよ。っていうか言ってやろう。

だけど似たような名前の団体が多くて、僕の記憶にちと自信がないのでやめときます。何か文句ある？