北村恭介16
胸の中で何かがはじけた。俺はベッドから跳ね起き、細身のジーンズにカバーオールをはおった。玄関でブーツを避け、スニーカーを履き、つばの長いキャップをかぶった。乱暴に鍵をかけ、非常階段を三段飛ばしで駆け下りた。何がはじけたのだろうか。俺はどこへ向かって走っているのだろうか。自問するが自答できない。
タビラが閉店してバーテンをやめた後、俺は探偵事務所を開設した。が、開店休業だった。もともと一匹狼で生きた俺にとって、情報網が必要な商売は無論、無理であった。食うためにバイトをした。どれも長続きしなかった。それでも、生きていけると思った。ただ、生きている実感はなかった。
マスターのひとり娘ヒトミからは何度も携帯が鳴った。最後に会ってから1年以上経った今でも鳴る。だが1度も受けたことはない。俺が姿を消した頃は、俺にはヒトミと会話を交わす資格がないと思っていた。待ってろ、男を磨いてむかえに行く。そんな気持ちすらあった。だが、今では、ヒトミからの着信は、ただのおせっかいとしか思えなくなっていた。自分で転がり堕ちていくのがわかる。そんな日々だった。
何がはじけたのだろうか。俺はどこへ向かって走っているのだろうか。わからない。
少しさかのぼって考えてみる。何かがはじけたきっかけは何だったのだろうか。俺はベッドに寝転がり、地元情報雑誌を開いていた。数ヶ月前にバイト先から持って帰ったものだ。読んでいたというより、ただ眺めていた。俺はその雑誌の小さな記事に目が止まった。そして俺は跳ね起きたのだ。俺はあとどれほどの距離を走るのだろうか。
たぶん、つづく・・・。
俺の名は北村恭介。久々の登場で、少し緊張したが、何か文句ある?
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